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もう時間切れだと、もう十分だと言う母親は、なぜか嬉しそうで。 「お母…さん?」 心は何が何だか分からず、母親を見つめるばかりだ。母親は、そんな心に微笑んで 《心、ありがとうね》 心の心拍数が上がる。 《…心》 微笑む母親。 《行かなきゃ》 ―何度か聞いた、悲しい言葉。 「…やだよっ!」 瞬間、心は叫ぶ。 母親に近寄り、その腕を掴み首を振った。 「勝手だよ!お母さんのせいで私の友達はいなくなったのに、お母さんまでいくなんてずるいよっ!」 寂しさ故に、言ってしまうきつい言葉。焦る故に、涙は出ない。 「やだよ…!」 俯き、苦しそうに呟く。 「…もう、ひとりぼっちはやだよ…」 《………》 呟く心に、母親はただ黙っている。 しばらくして、母親はそっと心の頭に手を置いた。 《…心、ごめんね》 その手はかすみ、心の頭を優しく撫でる。 《わたし達はね、ここに居てはいけないの…》 ゆっくりと、事実を話す。 《帰らないと、いけないの…》 心はただ押し黙り、弱々しく首を振る。 母親は、微笑む事を止めない。 その間にも、母親の身体はどんどん透明度を増していく。 「お母さん…!」 心は気付いて、母親を見上げる。 足が完全に消えた母親は、笑って心を見つめた。 「やだ、やだよ!いかないでよ…!」 俯きぶんぶん首を振り、心は必死で訴える。 母親は困ったように微笑んで 《…心、あなたには、もうわたし達は見えなくていいの…》 不意に言われた、言葉。 「…え?」 心は驚いて母親を見る。 母親は、微笑む。 《心、わたし達霊が望むことはね…》 ゆっくりと、心の額に手を伸ばす。 《生きている人達の、幸せ》 言って、母親の右手は心の額に触れた。 「お母さん…?」 不安げに言う心に、母親はにっこり笑った。 《心、あなたのこと、ずっと見守ってるわ》 高校生の母親にしては、若すぎる美しい顔。 母親は綺麗に笑った。 《…心、本当にありがとう》 瞬間、母親の右手からまばゆい光が放たれる。 心は反射的に目をつむった。 「…!…お母…さん!」 一瞬だけ目を開いた心の目に写ったもの。 それは、 身体の透けた母親。 そして、 微笑んで泣いている母親の顔。 不意に、母親が口を動かす。 心にはよく聞き取れない。 「―お母さんっ!」 叫んで、心は手を伸ばす。手は、空を切る。 聞き取れない、母親の言葉。 “ばいばい” 口の動きから、心にはそう読み取れた。
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