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時計を見て、心は急いで制服に着替えて朝食を済ませる。
―心が気付いた時には、もう母親の姿はなかった。
いくら呼んでも、母親は返事をしなかった。
一筋だけ、涙を流していた事に、心は気付かなかった……。
あの日から、心には霊が見えなくなった。声が聞こえる事もなくなった。
始め、それは心に不安をもたらした。常にいた話し相手がいなくなり、常にいた霊の姿が見えなくなる…。心にとっては十分の不安。
しかし、これが今までみんなが見ていた世界なのだと、新鮮さも覚えた。
なぜ霊が見えなくなったのか、心にもわからない。
玄関を開け、外に足を踏み出す。
いつもやっている、いつもの行動。
「………」
無言で空を見上げ、心は小さく息を吐いた。
そして、
「行ってきます」
呟いて、玄関のドアを閉める。
人気の少ない、花畑の前。
そこに、一人の少女が立っていた。
自分の所へ走って来る人に気付き、少女は目を向ける。
「心、おはよう」
少女は笑顔になり、心に手を振った。
「ごめん」
心は軽く息を乱して、少女に言う。
待ってないよ、少女はそう言って、心に笑う。
「行こっか」
少女は心に言って、心も笑顔で首を縦に振る。
「うん」
人気の少ない、花畑。
桃色のコスモスが、風に揺れる。
心に霊が見えなくなった代わりに、友達が出来た。学校の友達。
心には、その事が嬉しくて仕方がない。
本当に嬉しくて。
普通の人にない、つよいちから。
自分にはある、つよいちから。
普通の人にはある、つよいちから。
自分にはない、つよいちから。
心は、普通の人が持つ“つよいちから”を持ち、こんなに嬉しい事はないと、感謝した。
今まで会った全ての霊達に、感謝した。
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