日常

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いつものように、一人で過ごす学校。 高校生になった心は、相変わらず一人で過ごしていた。 仕方がない。 見えてしまうのだから…。 学校という所には、霊が取り憑きやすい。故に、たくさんの霊がそこら辺を浮遊している。 《ねぇ、君はどうしていつも一人なの?》 ある男の霊に、そう聞かれた事がある。 まさか「あなた達のせいだ」と言えるはずもなく、 「一人が、好きなだけ…」 と曖昧に笑った。 心に対して、霊達は優しかった。悪い霊も時々いる。しかし、実際にはいい霊がたくさんいた。 心は霊が友達と思っていた。 人間より、全然優しい、と。 下校。 心は部活動に所属していないため、早々と帰宅する。 その時も霊がくっついてくる。 《なんで友達と帰らないんだよう?》 小学生くらいの男の子が、不思議そうに心に言った。 「友達、いないし…」 心は苦笑しながら、目のやり場に困っていた。 何しろ、男の子の頭には大きなガラスがざっくり刺さっていて、傷口からは大量の血がでているのだから…。 男の子は気にした風もなく心に話しかける。 《でも、友達といた方が楽しいじゃんか》 無邪気に笑う男の子を、心は優しく見守る。 《ぼくにも、いっぱい友達がいるんだ!》 笑って、言う。 《…でも、なんでかな…?ぼくのことが見えないみたいに、ボール追いかけるんだよ》 男の子は不思議そうに首を傾げる。 《なんでかな…?》 考え込む男の子に、心は声をかけた。 「じゃあ、今度私と遊ぼうよ」 瞬間、男の子はにっこり笑って、嬉しそうに頷いた。 《本当?やったぁ!》 心から喜ぶ男の子を、心は少し悲しそうに見つめる。しかし笑顔を絶やさずに 「本当だよ」 と男の子に言った。 《約束だよ!》 男の子が、手を差し出し、小さな小指を立てた。心もそれに習って小指を差し出す。 決して触れる事のない、指と指。 「うん。約束」 心は笑って、男の子も嬉しそうに笑った。 空気が、心の小指を包む。 男の子と別れを告げ、心はやる瀬ない気持ちでいっぱいになる。 …あの男の子は、最近の事故で帰らぬ人となった。自分が命を落とした事に、まだ気付いていないのだ。 心は自分の小指を見つめる。 触れる事のなかった、男の子との約束。しかし、約束は守ろうと、心に決めていた。 自分に出来る事は、それくらいしかないのだから…。 心はアパートへと、歩を進める。
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