0人が本棚に入れています
本棚に追加
アパートに帰ると、当たり前のように母親が心を招き入れた。
《お帰り、心》
笑って言う母親に、心も笑顔で返す。
「ただいま」
心が母親を見る事が出来るようになったのは、つい最近。一人で家に帰宅した時、母親が当たり前のようにベットに座っていて、かなり驚いた。
しかし母親は自分の死をちゃんと把握している。なぜ命を落としたのか、分かっている。
心は少しだけ疑問を抱いたが、母親と話せる喜びでそんな事は忘れてしまった。
《今日も、一人だったの?》
心配そうに言う母親に、心は制服を脱ぎながら首を振る。
「ううん。男の子の霊と一緒だったよ」
返答を聞き、母親はため息をつく。
《そうじゃなくて…》
「?」
うなだれる母親を、心は不思議そうに見た。
高校生の母親としては若すぎる美貌。心の母親は心が4歳の頃に命を落とした。病弱だった母親は、重い病魔に冒され、若すぎる死を迎えた。
だから心に母親の記憶は少ない。
それでもたった一人の母親だ。愛していた事に変わりはない。
《心、高校の友達とも仲良くしないと…》
母親はベットに腰掛けながら言った。重さはない故、布団はへこみもしない。
「大丈夫だよ。霊の友達なら、いっぱいいるし」
心は少し頬を膨らませながら返す。
《でもねぇ…》
母親はため息をついて、心に笑った。
《…まぁ、心がいいなら、それでいいけど。あんまり心配させないでね?》
心は「うん」と笑い返す。
すると、母親は気が付いたように窓の外を見た。
《もうこんな時間…。お母さん行かなきゃ》
そう言ってベットから腰を上げ、ふわりと宙に浮く。
「えぇ?」
心は声を出して母親を引き止めようとする。
しかし
《ごめんね》
と一周されてしまった。
霊に触れる事の出来ない心は、必死で止めようとする。
「なんで?」
すると母親は、振り返り、寂しそうに笑った。
《また明日ね》
それだけ言うと、窓を擦り抜けて消えてしまった。
後には心一人が残される。
「…むぅ」
口を尖らせ、心はベットに座り込む。
すると突然
《俺がいてあげよっか?》
とベットから高校生くらいの少年が出てくる。
心は少年を少し睨んで、
「あなたがいても、迷惑です」
と一周する。
少年は《ありゃ》と肩をすぼませ、手をひらひらと振った。
《わかったよ。また来ちゃうもんね》
ワックスで立てた茶髪を最後に、また消える。
部屋には、心一人になる。
最初のコメントを投稿しよう!