お母さん

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アパートに帰ると、当たり前のように母親が心を招き入れた。 《お帰り、心》 笑って言う母親に、心も笑顔で返す。 「ただいま」 心が母親を見る事が出来るようになったのは、つい最近。一人で家に帰宅した時、母親が当たり前のようにベットに座っていて、かなり驚いた。 しかし母親は自分の死をちゃんと把握している。なぜ命を落としたのか、分かっている。 心は少しだけ疑問を抱いたが、母親と話せる喜びでそんな事は忘れてしまった。 《今日も、一人だったの?》 心配そうに言う母親に、心は制服を脱ぎながら首を振る。 「ううん。男の子の霊と一緒だったよ」 返答を聞き、母親はため息をつく。 《そうじゃなくて…》 「?」 うなだれる母親を、心は不思議そうに見た。 高校生の母親としては若すぎる美貌。心の母親は心が4歳の頃に命を落とした。病弱だった母親は、重い病魔に冒され、若すぎる死を迎えた。 だから心に母親の記憶は少ない。 それでもたった一人の母親だ。愛していた事に変わりはない。 《心、高校の友達とも仲良くしないと…》 母親はベットに腰掛けながら言った。重さはない故、布団はへこみもしない。 「大丈夫だよ。霊の友達なら、いっぱいいるし」 心は少し頬を膨らませながら返す。 《でもねぇ…》 母親はため息をついて、心に笑った。 《…まぁ、心がいいなら、それでいいけど。あんまり心配させないでね?》 心は「うん」と笑い返す。 すると、母親は気が付いたように窓の外を見た。 《もうこんな時間…。お母さん行かなきゃ》 そう言ってベットから腰を上げ、ふわりと宙に浮く。 「えぇ?」 心は声を出して母親を引き止めようとする。 しかし 《ごめんね》 と一周されてしまった。 霊に触れる事の出来ない心は、必死で止めようとする。 「なんで?」 すると母親は、振り返り、寂しそうに笑った。 《また明日ね》 それだけ言うと、窓を擦り抜けて消えてしまった。 後には心一人が残される。 「…むぅ」 口を尖らせ、心はベットに座り込む。 すると突然 《俺がいてあげよっか?》 とベットから高校生くらいの少年が出てくる。 心は少年を少し睨んで、 「あなたがいても、迷惑です」 と一周する。 少年は《ありゃ》と肩をすぼませ、手をひらひらと振った。 《わかったよ。また来ちゃうもんね》 ワックスで立てた茶髪を最後に、また消える。 部屋には、心一人になる。
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