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一時間目の授業を受けていた時、窓の外を眺めていた心はぎょっとした。
調度見える屋上に、誰かいたのだ。それも、柵の外側に。
…まさか、飛び降り?
心は思わず手を挙げる。黒縁の眼鏡をかけた男教師が、気付いて「なんだ?」と言った。
「お腹が、痛くて…保健室に行っていいですか?」
慣れない嘘に苦い思いをしながら、心はおずおすと言った。
教師は気にした風もなく
「行って来い」
とだけ言った。
心は内心ほっとし、立ち上がり一礼してドアに向かう。
「…仮病かよ…」
不意に聞こえた声。見るとクラスの大半が心を睨んでいる。心は下唇をきゅ、と噛み、足早にその場を後にした。
急いで屋上に向かうと、案の定制服を着た少女が、今から飛び降りると言わんばかりに身を乗り出していた。
「何、してるの!?」
心は驚き、慌てて少女に歩み寄る。
「来ないでッ!」
急に大声を出され、心はびっくりして歩みを止めた。
「もう…嫌…」
少女は長い髪を風になびかせながら、泣きながら言った。
「…誰も、わたしの事…分かってくれない…」
少女の言葉。
その言葉を聞いて、心は胸が痛くなった。
…自分と、同じ。
心はなるべく少女を刺激しないように話しかける。
「…私も、同じ。でも、命を無駄にしないで…」
少女の鳴咽が止まる。
心はゆっくり柵に近寄る。
「生きたくても、生きられない人も…いるの…」
柵に手を掛け、少女に触れようとした瞬間。
《わかったような事、言うなぁぁッ!!》
少女が叫び、振り返る。その顔を見た瞬間、心は悲鳴を上げた。
顔が……
顔半分が、削げていた。眼球は剥き出しになり、頬の皮膚が剥がれ落ち、血が滴っていた。
「やぁぁッ!!」
心は目を見開き悲鳴を上げる。
少女が、心の腕を掴んだ。
「ッ!」
力が強く、振り払えない。
《…あんたは、生きてる》
少女が、唸る。
《…わたしは、死んでる》
「ッッ!」
心は恐怖で涙目になる。
《あんたも死ねばいいんだぁッッ!》
恐ろしい程の力。恐ろしい程の、怨念。
「嫌ぁぁッ!」
少女に柵の外に連れて行かれると覚悟した、その時――
《―心ッ!》
心は声の主を見る。
「…お母さんっ」
険しい顔付きで、母親は少女の腕を掴み引きはがす。自由になった心は、慌てて母親と少女を見た。
《ああぁぁあッ!》
少女は、絶叫し、強風を起こす。
心は、少女を見つめた。
しばらくして、強風は止み、少女は消えた。
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