雪国への出張

6/11
前へ
/122ページ
次へ
 山本は、席に座ると直ぐに 、手帳を広げて段取りやら予 定やらを確認している。普段 は、ふらふらしていて、四六 時中おとぼけを決め込んでい るように見える彼も、それな りに緊張しているようだった 。  私はと言うと、ひたすら外 を眺めていた。私は電車の中 から外を見るのが大好きで、 学生の頃、盆や正月に帰省す る際など、各駅停車で半日以 上もかけて移動したものだ。  そんな時、私は本を読むで もなく、ただ外を眺めて楽し んでいたのだ。  夜は、夜景の明かりと、車 のライトを楽しんだ。  昼の景色では、電車から伸 びる影が、列車のすぐ脇の地 形に合わせて、伸びたり縮ん だりするのをみて意味無く笑 った。  影が見えない時も、それは それで、風を感じたり匂いを かいだり、自分の分身が列車 と同じ速度で走ってついてく るのを想像したりと、まるで 飽きると言う事を知らず、も うそれは、趣味といっても良 いくらいなのだ。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加