始まりの夢

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 この夢を見た後の私の身体は、本当に冷え切っていた。  小学校の頃は、この夢を見るたびに、風邪をひいていたものだ。  不思議なことなのだが、本当に体の芯から冷え切ってしまうため、この夢を見たあとは必ず、、ひどい頭痛と吐き気の中、助かりたい一心で、ふらつく体を気力で支えて、母親を探す。  そうして、気分が悪いからと、体調不良を訴えて、学校を休むことになる。  私がこの夢を初めて見たのは、いつ頃の事だったろう。小学校に上がってからか? それともそのもう少し前の事だったろうか。今となっては、はっきりしない。ただ初めてこの夢を見た時は、たまたま母親と一緒に寝ていたから、彼女に起こされた。  そのことだけは、覚えている。 「亮くん……。亮くん……。亮児! 起きなさい」  母親が、私の両肩をつかんで乱暴に揺すっていた。頬も叩かれる。  何度呼ばれても、私が何の反応も示さない為、母親も軽いパニック状態だった。  私が、無理やりにでも起こされたのには、それ相応の理由があった。  私の唇は紫色に染まり、歯をがちがち鳴らしていたのだ。  私がようやく目を開くと、母親は、安堵のため息をつく。 「どうしたの、亮くん。気分悪いの? どっか痛む?」  そう言って、心から心配そうに私をのぞき込む。その後、私の額に手を当てて、 「おかしいなあ。絶対に変……。異様に冷たいじゃないの。どうしたのぉぉ亮くん」  そう言うと、私を膝の上に誘う。そして、背中から抱きしめてくれた。    その後、毛布に包まれて、病院へと連れて行かれる。  タクシーの中でも、私の体の震えは止まらない。  意識が朦朧として、所々記憶が飛ぶ。  病院に着くと、 「さっきから言ってるでしょう。熱はありません。とにかく異常に体が冷たいのよ」  受付では、母親が大きな声を出していた。  そう説明しているにもかかわらず、渡された体温計を持って戻ってきた母親は、しぶしぶという感じで、それを私の脇に挟む。  そして、少し疲れたような顔を見せながらも、私の髪を撫でてくれた。  体温計は、温度を示さなかった。  当時の体温計は、デジタルの物ばかりではなく、水銀式のものもまだあって、母が手渡されきたのは、水銀式の物だ。一番低い温度のメモリが三十五度。そして、私の体温は、さらにそれより低いらしかった。
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