39人が本棚に入れています
本棚に追加
医者には低体温症と診断された。八月の熱い盛りなのにだ。
「冷房をつけっぱなしで、お休みになっていませんか?」
「それとも扇風機をつけたまま寝るとか……」
医者も困った様子を見せている。そしてそれは、私の母も同じ事だった。
彼女にも、もちろん心当たりなどない。
「冷房も扇風機もつけていません。昨日はこの子と一緒に寝てたんですから、それは確かです」
「しかしねぇ奥さん……。これは冷えすぎた事によって起こる症状なんですよ。ほら、プールに入りすぎたりすると身体が冷えて、ちょうどこんな具合に唇が紫色になったり、歯が鳴ったりする事があるでしょう」
「まあ一時的なものだと思いますけど、不思議ですな……」
そう言って、医者は私をじろりとながめた。
「亮くん、お母さんが寝ている間に何かした? 扇風機つけた?」
母親が、私に優しく訊く。
「おかあさん絶対怒ったりしないから教えて。ねっ……」
そう言って首を傾げこむようにして私を見る。
私はといえば、はただ黙って、首を横に振るだけだ。夢の話などしたところでどうにもならないことを、子供なりに理解していたのだ。
こんな風に、母親に心配をかけたことも何度かはあったけれど、ほとんどの場合私は、凍える身体を自分自信で抱きしめながら、ひどい頭痛のなか、一人で目を覚したのだった。
ただ、ありがたいことに、大人になるにしたがってこの夢を見る機会は少なくなって、今朝、この夢を見るまでの、数年間は、夢の事も忘れていたほどだった。
最初のコメントを投稿しよう!