始まりの夢

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 医者には低体温症と診断された。八月の熱い盛りなのにだ。 「冷房をつけっぱなしで、お休みになっていませんか?」 「それとも扇風機をつけたまま寝るとか……」  医者も困った様子を見せている。そしてそれは、私の母も同じ事だった。  彼女にも、もちろん心当たりなどない。 「冷房も扇風機もつけていません。昨日はこの子と一緒に寝てたんですから、それは確かです」 「しかしねぇ奥さん……。これは冷えすぎた事によって起こる症状なんですよ。ほら、プールに入りすぎたりすると身体が冷えて、ちょうどこんな具合に唇が紫色になったり、歯が鳴ったりする事があるでしょう」 「まあ一時的なものだと思いますけど、不思議ですな……」  そう言って、医者は私をじろりとながめた。 「亮くん、お母さんが寝ている間に何かした? 扇風機つけた?」  母親が、私に優しく訊く。 「おかあさん絶対怒ったりしないから教えて。ねっ……」  そう言って首を傾げこむようにして私を見る。  私はといえば、はただ黙って、首を横に振るだけだ。夢の話などしたところでどうにもならないことを、子供なりに理解していたのだ。  こんな風に、母親に心配をかけたことも何度かはあったけれど、ほとんどの場合私は、凍える身体を自分自信で抱きしめながら、ひどい頭痛のなか、一人で目を覚したのだった。  ただ、ありがたいことに、大人になるにしたがってこの夢を見る機会は少なくなって、今朝、この夢を見るまでの、数年間は、夢の事も忘れていたほどだった。
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