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彼女は“あか”そのものだった。
ヒガンバナのごとき紅い髪。
月のように神秘的な瞳も、また紅だった。
紅い死神。
ひとは彼女をそう呼んだ。
彼女は異質であった。ただ、そこに在るだけで異質なものである。
彼女は孤独だった。明らかに周囲の人間とは違う、尖った長い耳も、女にしてはやけに高い身長も、重力を無視したかのような超人的な身体能力も、魔術師でもないのに炎の魔術だけは使えることも、全てにおいて彼女は異質でしかない。
戦場で、彼女は死神と言われていた。
朱色の鎧を身に纏い、手足のように太刀を振るい、その透き通るような刀身を血に染める。
彼女の居場所は、戦場だった。
戦場ならば、彼女は異質ながらに必要とされていた。
彼女はそんな気休めを、気休めと知りながらも戦った。殺し、殺し、殺し、命の重さを忘れ、自分の心が壊れ、自分が壊すだけの存在だと思い込むほど、彼女は殺して壊して奪った。
彼女には記憶がない。
自分がどこから来たのか、親の顔も、友の顔も、自分の名も、記憶と呼べるものはなかった。ただ、彼女は気付けば太刀を握りしめ、この血の海に佇んでいた。
彼女は、彼女自身の存在を証明する術を持っていないのだ。
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