1人が本棚に入れています
本棚に追加
戦争が、終わった。
自分の味方していた国が、敗れた。
彼女の責任ではない。彼女が外で戦っている間、王宮が敵国の騎士や傭兵どもに占拠されたらしい。王は泣く泣く白旗を揚げざるを得なかったのだ。
彼女は自分の味方していた国が、軍が敗れたことについては何も感じなかった。
ただ、戦う必要がなくなったことで、彼女は居場所をなくし、生きる意味もなかった。
殺せと命じられて、殺してきた。壊せと命じられて、壊してきた。
彼女はもう、人の命令なしでは行動できない。そういうふうに、心が思い込んでしまったから。
彼女は何かを殺し、壊し、奪うことしかできない、ただの兵器。
無意識のうちに、彼女はそう思い込んでいた。心が壊れていた。
戦場という居場所をなくし、敗北に打ちひしがれる国の中、彼女はただよろよろと歩くしかなった。
憩いの場。首都の住宅街にある、噴水つきの広場に腰掛けて、彼女はリンゴをかじっていた。
「あら、きれいな髪」
一人の女が、彼女に声をかけたのだ。栗色の髪に、碧い瞳。見た目は平凡なのに、女は何か違っている。
「きれいな赤ね」
年のころは16か、17か。とにかく若い。
女は無邪気に笑った。戦争に敗北した国の中心、首都の憩いの場で、暗い顔をする人々の中で、女はやけに明るかった。
町娘の格好をしているところを見ると、この町の人間のはずだった。
「名前は?」
「ありません」
彼女が間接に答えると、女はクスッと笑った。
「わたしはにこる」
そして、彼女の髪を指ですいた。彼女は思わず目を丸くした。血のようで、おぞましいと、何度か言われた紅い髪。その紅い髪を嬉しそうにすきながら、にこるは彼女の髪を撫でた。
「痛んでる。お手入れはしているの?」
彼女は首を横に振った。
「あら、だめよ。ちゃんとお手入れはしなくちゃあ。こんなにきれいな髪なのに、もったいない」
彼女は返答に困った。
「そうだ」
にこるは彼女の髪をすくのをやめた。彼女は、少しだけもの惜しい感じがして、自分の中にまだまともな感情があるのかと期待してしまう。
にこるは、持っていたかごを膝の上に乗せて、かごにかぶせてあった布を優しくめくる。するとそこには、――赤があった。
彼女が目を話さずににこるの手先を見ていると、にこるは赤を一本抜き取った。
最初のコメントを投稿しよう!