Destin

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 戦争が、終わった。  自分の味方していた国が、敗れた。  彼女の責任ではない。彼女が外で戦っている間、王宮が敵国の騎士や傭兵どもに占拠されたらしい。王は泣く泣く白旗を揚げざるを得なかったのだ。  彼女は自分の味方していた国が、軍が敗れたことについては何も感じなかった。  ただ、戦う必要がなくなったことで、彼女は居場所をなくし、生きる意味もなかった。  殺せと命じられて、殺してきた。壊せと命じられて、壊してきた。  彼女はもう、人の命令なしでは行動できない。そういうふうに、心が思い込んでしまったから。  彼女は何かを殺し、壊し、奪うことしかできない、ただの兵器。  無意識のうちに、彼女はそう思い込んでいた。心が壊れていた。  戦場という居場所をなくし、敗北に打ちひしがれる国の中、彼女はただよろよろと歩くしかなった。  憩いの場。首都の住宅街にある、噴水つきの広場に腰掛けて、彼女はリンゴをかじっていた。 「あら、きれいな髪」  一人の女が、彼女に声をかけたのだ。栗色の髪に、碧い瞳。見た目は平凡なのに、女は何か違っている。 「きれいな赤ね」  年のころは16か、17か。とにかく若い。  女は無邪気に笑った。戦争に敗北した国の中心、首都の憩いの場で、暗い顔をする人々の中で、女はやけに明るかった。  町娘の格好をしているところを見ると、この町の人間のはずだった。 「名前は?」 「ありません」  彼女が間接に答えると、女はクスッと笑った。 「わたしはにこる」  そして、彼女の髪を指ですいた。彼女は思わず目を丸くした。血のようで、おぞましいと、何度か言われた紅い髪。その紅い髪を嬉しそうにすきながら、にこるは彼女の髪を撫でた。 「痛んでる。お手入れはしているの?」  彼女は首を横に振った。 「あら、だめよ。ちゃんとお手入れはしなくちゃあ。こんなにきれいな髪なのに、もったいない」  彼女は返答に困った。 「そうだ」  にこるは彼女の髪をすくのをやめた。彼女は、少しだけもの惜しい感じがして、自分の中にまだまともな感情があるのかと期待してしまう。  にこるは、持っていたかごを膝の上に乗せて、かごにかぶせてあった布を優しくめくる。するとそこには、――赤があった。  彼女が目を話さずににこるの手先を見ていると、にこるは赤を一本抜き取った。
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