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黒褐色の外皮があり、葉は線型で、とにかく赤い花だった。
「彼岸花っていうの。曼珠沙華、死人花とも言うわね」
にこるはそんな蘊蓄を楽しそうに、歌うように言って、彼女に背中を向けるよう指示した。彼女は躊躇いなく背中を向けた。にこるは彼女の髪を指ですきながら、ポケットにあった髪留めで、彼女の髪を結った。
上半分だけを綺麗に頭の上で結って、そしてにこるはかごの中から抜き取った赤い花の茎を切ると、その結った髪に差し込んだ。
「園芸上では、リコリスって言うのよ」
作業が終わったことを察した彼女は、にこると再び向き合った。
「りこ、りす……」
彼女は気付けば、鸚鵡返しにしていた。リコリス。なんだか綺麗な響きだ。
「きれいよ。とてもきれい」
にこるは輝くような笑みを浮かべ、そっと彼女を頬を撫でる。
「あなたはとてもリコリスが似合うわ。さっき、名前がないって言ったでしょう?」
彼女は今まで感じたことのない、痒くて、弾むようなものを胸に感じた。
「わたし、あなたのことをリコリスと呼ぶわ」
そう言ってにこるはこの短い時間の中で一番の笑顔を浮かべて、そっと彼女の頬にキスをすると、スッと静かに立ち上がった。
彼女はキスされた頬を指先でなぞるように触れて、ふわりとスカートを翻してくるっとステップを踏んで見せたにこるを見つめた。
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