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「わたしは、運命ってものを信じているわ。人はね、生きて、愛されて、愛して、憎んで、憎まれて、そして死ぬの」
歌うように、にこるは言う。彼女はただにこるを見つめることしか出来ない。
「そんな人生の中で、わたしはもっとも多くの人に愛され、愛したいわ」
にこるは、笑顔を浮かべた。だが、今までの笑顔とは違っていた。
どこか重い。ただの笑みではない。重い意味を含んでいるように、彼女は思った。
「そうなるためには、運命を信じてみるのが一番よ。命を運ぶことが、運命なのだから」
だからね、と、にこるはやわらかく微笑む。
「リコリス、あなたのその髪に結ったリコリスの花が枯れる前に、もしもわたしとあなたがまた出会うことがあったら、それは運命だと思うの。だから、そのときは……――」
彼女の中で、周りの雑踏は消えた。まるで、にこると自分、二人だけのような感覚だった。これから、とてもすてきなことが起こる気がした。
ニンゲンらしさに似たものは、とっくの昔に失ったと思っていた。
自分は殺し壊し奪うだけの、命令に従う兵器だと思っていた。
でも、彼女は期待していた。にこるが、目の前で重い意味を含んだような笑みを浮かべるのを見つめて、彼女は胸をいっぱいにした。
「わたしと、共に旅をしない?」
end
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