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レンが男を諌める直前。青い影が、横切った。
「このような、祝宴で酒酔いなどみっともないですよ」
酔っ払い男の腕を、青髪の青年が抑えた。穏やかな風貌に似合わず、かなりの武術の使い手らしい。
あっさりと、グラスを奪うと。音も上げず、みぞおちに拳を入れた。
「すっ、すみません…」
「構わないさ。勝手に俺がした事だからね」
人々が、二人を中心に輪を作る。壇上のリンは、暴言に震えていた。
「式を中断させてしまい、申し訳ありません。リリエンヌ王女、安心して続けて下さい」
青年はリンに促すと。男を片手に、広間を出て行った。後ろ姿を見届けると、レンはリンへと見やる。
今にも泣き出しそうな、濡れた瞳でリンは立ちすくんでいた。
「…私は、」
鼻声交じりの色。何とか、暗記した宣誓文も素っ飛んだらしい。
「・・・・・」
不協和音が広間に響く。訝しむざわめきが広がっていく。
「私は…、」
余りに酷い状況に、レンは壇上へ向かった。臣下が登壇するのは、禁止されているが。この状態を打破するには、仕方ない。
「大丈夫だよ、リリエンヌ王女は。王女は、ちゃんと最後まで言えるよ」
不意に、左手を掴まれる。相手は先程の青年だった。
「あの…、さっきの酔っ払いは?」
「ああ、今ごろ、庭のベンチで眠っているよ」
真意の分からない、曖昧な笑顔。だいぶの食わせ物のようだ。
「…ほら、ごらん。王女様の口上だよ」
青年の促されるまま、レンはリンへと向く。リンはこちらを見据え、口を開いた。
「私は、国の皆が幸せになるような、そんな国を作りたいです」
破れんばかりの拍手が鳴り響く。中には、ハンカチを取り出し、涙を拭う婦人もいた。
大臣が用意しなかった、リンの思い。それが伝わったのだろう。レンは胸を撫で下ろした。隣りの青年も満足げに笑む。
「…これで、黄の国も安泰だな」
呟く、青年の瞳が青く緩む。素直に、受け取れないまま。レンはしばらく、王女を見つめていた。
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