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「リ~ン~っ」
こだまばかりが回廊に響く。
こんな時、レンはいつも広すぎる城内を恨んだ。
窓枠に施された模様細工。
赤い薔薇を挿した花器。
庭に佇む、大理石製の彫像。
全ては、先々代の王の集めた品だと聞かされた。
そして、今日から。
全てが彼女のものになる。
「リンっ!!」
石像の下で、小花柄のドレスが風に揺れる。
回廊から、レンは庭へと飛び出した。
春風が頬を撫でる。薔薇の香りが漂い、少し噎せそうになった。
「あら、レン。ちょうど良かった」
レンの焦りも空しく、リンはいつもマイペースだ。
「何、言ってんのさ…。早く着替えてよ、皆、探してたんだよ」
「でも、まだ時間はあるわ」
気が抜けて、レンは膝から落ちた。今日はリンの戴冠式。式自体は昼過ぎに開始する。だが、それまでには準備があるのだ。
(…昨日、あれだけ注意したのに)
どこまでもマイペースなお姫様。
レンは見上げると、リンの笑顔とぶつかった。
「今日は、レンもおめかししてるんだね」
「一応、今日から王女様付きの召使だからね」
下働きしてた時とは違う、艶やかな服地。首元にはスカーフが巻かれ、裾には金のブレードが輝く。
「とても素敵よ、レン。これなら似合いそうだわ」
リンはシルクのスカーフに手を伸ばした。何かを付けているようだ。どうにか終えると、後退りした。
「私からのプレゼント。これからも私と仲良くしてね」
レンは首元を見た。
赤い、 ルビーのブローチ。周りの彫金も細かく、よく見ると宝石が埋め込まれていた。
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