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「おい…大丈夫なのか?」
「これぐらい、いつものことじゃないか。」
入院中の顕治は、ベッドの上で血を吐いた。喀血(カッケツ)だ。
肺に病気を持つ彼は、血を吐くなんてことも少なくない。
ちなみに、肺に小さな穴まで空いてる。
病名は…肺結核らしいが、それだけが理由で穴まで空いたわけではないみたいだ。
むしろ、穴が空いてから肺結核を患っている。だから厄介。
「源…約束してほしい。」
「…何だよ?」
「もし俺が死んだ時…凛沙は気丈に振る舞うかもしれない。でも心はボロボロなんだ…しばらくは近くに居てやってほしい。」
「………わかった。」
「……ふぅ……ありがとう…」
「…無理…するなよ。肺と心臓の提供者が見つかれば、助かるんだから。」
「ふっ……天才は誰でも早死になんだ。俺もその天才の中の一人に数えられたなら、これ以上うれしいことなんてのはそうそうないだろ?」
自嘲気味に話す顕治。こいつの目は本気じゃない。
「顕治はそうかもな。でも俺にはわかんね。俺はやっぱりお前とWデートする方が楽しい。」
「俺だってそりゃ楽しいさ。」
ふふっと笑うと、顕治は目を閉じた。疲れたんだろう。
俺は駆け付けて来たお医者さんに、顕治が血を吐いたことを説明し、部屋を出た。
入れ代わりに凛沙が来た。
「顕治…今血を吐いた。」
「……そう。」
「まぁ……きっと提供者が見つかるさ。」
「大丈夫。」
「あ?……何が?」
「彼は死んでも。命は無駄にならない。させない。」
「む、無駄って……どういうこと?」
「私。妊娠したから。」
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