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「見てみたかったな」
僕は笑いながら返すが、友人の言った「ヤラレマン」という言葉に嫌悪感を抱いていた。
この言葉を作ったのは北海道支部の責任者で、「やりたくないけど断れずに結局やられる女」をそう呼んでいた。
みんなが話を聞いて笑っている中、僕だけ一人、苛立っていた。学生の頃からだ。こういう話はどうも性に合わないらしい。話を合わせて聞き流すのが常だった。
「どうせお前もそいつとやったんだろ?」
僕はいつも通り、苛立ちを抑えて話を合わせる事にした。
「あぁ、何回かヤリニゲしてるから顔を見られたらやばいな」
僕はますます苛立ってきた。が、友人の顔を見ると、冗談を言っている顔つきではなくなっていた。
「自殺しなければ良いが……」
友人の言葉は意外だった。何故、自殺の心配などするのか、僕には理解出来なかった。
田んぼ道はどこまでも続いている。この地域の唯一の信号機までひたすら真っ直ぐに進んで行かなければならない。対向車は、軽トラが一台……。いや、二台だったか?
……。
その時の友人の言った自殺の意味を理解出来たのは、それから一年程経ってからだった。友人には、霊感があったのだ。僕はあの時、彼女を見れなかったのではなく、見えなかったのだ。
完
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