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大木を積んだ蒸気機関車は、黒煙を巻き上げて山から町へと向かっている。
汽笛が聞こえると、線路の近くの住民は皆、洗濯物を中へとしまい出した。煙で洗濯物が真っ黒になってしまうのだ。
細い枝切れを振り回しながら、子供達が機関車を追いかける。服が汚れるからお止し。と、母親らしき人の声が聞こえてくるがお構いなし。
子供の一人は、丸太が積まれてある列車の脇に、バンカラの学生の姿を発見した。
ススで身体中黒く染められた、それでいてなにか、楽しそうな笑みを浮かべる学生を。
「あっ……」
学生は子供と目が合うと、機関車から飛び降りて林の中へと消えていった……。
ススまみれの学生は、町を歩いていた。道の両脇にはキネマやら舞台ののぼりが並んでいる。
町を歩く人達は、この学生を不思議そうに見ては通り過ぎていった。学生は周りを気にせずに、見るもの全てを珍しげに眺めて歩いている。
日も暮れた辺り、学生はカフェの入り口の前に、中年の軍人を発見した。
「おや、あれは幽霊ではないか?」
学生が幽霊の後をつけて行くと、質素な平屋にたどり着いた。
「ごめんください」
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