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「はい、どちら様でしょうか?」
出て来た婦人はどこか陰のある、眼の辺りや輪郭は華宵を思わせる人。着物こそあんなに綺麗なものでは無いが。
先程の軍人よりも十歳は若く見える。ススだらけのバンカラに驚いたが、冷静を装っている。
「私は、三上正太郎と申します。あなたのご主人に連れられて参りました。一晩、泊めては頂けないでせうか?」
「あら、変な事を言う。主人はとっくに亡くなっております」
「えぇ。しかし私は、人に見えないものが見えるのです。ご主人は貴女に、とても会いたがっております」
「まぁ気味の悪い人。お帰り下さい」
「しかし私には、今晩泊まる宿もお金も無いのです」
「いいえ、お帰り下さい。見ての通り、家は人様を泊められる程、裕福ではありませんので」
頑なに断る婦人だが、正太郎の眼を見ているうちに、どういう訳か居間へと案内してカルピスまで振る舞っているではないか。
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