大正・ネクロマンス

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 主人を亡くして、実家へも帰れなかった婦人は珍しい客に話がはずむ。   「あら、お上手ですこと。私などが華宵や夢二の絵に似ている訳もございません」    しかしその微笑んだ口元は、確かに夢二を意識していた。   「華宵よりも夢二の方が好き。華宵の眼は、どこかしら幽霊の様な」   「そうですか。私からすれば夢二のぼんやりとしたタッチの方が、幽霊の様に見えます」   「どっちにしろ、私が幽霊の様だと言いたいのですね」    冗談にすねたふりをする婦人の後ろに、主人の影がちらついている。正太郎はそれを見てクスリと笑い、ゴォルデン・バットに火を点けた。   「どうです? 一度、幽霊になってみると言うのは? ご主人にも会う事が出来る」   「それも良いですね。最近なんだか疲れちゃって」    それは婦人の本心かもしれなかったが、真剣に考えていた訳ではない。しかし、正太郎は本気だった。    正太郎は、死体しか愛せない人間なのだ。       「魂は要らない。ご主人から奪いはしない。しかし、この人の死体は、私のものだ!」          大正・ネクロマンス   完
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