37人が本棚に入れています
本棚に追加
主人を亡くして、実家へも帰れなかった婦人は珍しい客に話がはずむ。
「あら、お上手ですこと。私などが華宵や夢二の絵に似ている訳もございません」
しかしその微笑んだ口元は、確かに夢二を意識していた。
「華宵よりも夢二の方が好き。華宵の眼は、どこかしら幽霊の様な」
「そうですか。私からすれば夢二のぼんやりとしたタッチの方が、幽霊の様に見えます」
「どっちにしろ、私が幽霊の様だと言いたいのですね」
冗談にすねたふりをする婦人の後ろに、主人の影がちらついている。正太郎はそれを見てクスリと笑い、ゴォルデン・バットに火を点けた。
「どうです? 一度、幽霊になってみると言うのは? ご主人にも会う事が出来る」
「それも良いですね。最近なんだか疲れちゃって」
それは婦人の本心かもしれなかったが、真剣に考えていた訳ではない。しかし、正太郎は本気だった。
正太郎は、死体しか愛せない人間なのだ。
「魂は要らない。ご主人から奪いはしない。しかし、この人の死体は、私のものだ!」
大正・ネクロマンス
完
最初のコメントを投稿しよう!