出会い

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(ここから降りたら、楽になるのかな?) そう考えると さっきまでの腹痛や 吐き気や眩暈が 嘘のようになくなっていった。 私は立ち上がり金網と、 その向こう側を見つめる。 金網は、 越えられない高さではない。 右手で金網に触れる。 想像する。 私がいなくなった後の世界。 お母さんは泣くだろうか? 多分・・・いや、 絶対に泣くだろう。 私はお母さんが悲しむ、泣く。 それが嫌だという ただその一点においてのみ 今日まで 「死なない」ことに 精一杯でいられたのだった。 お母さんは幼稚園の頃、 父親が突然いなくなってから 今日までずっと 朝から晩まで働いて働いて 働いて女手ひとつで 私をここまで育ててくれた。 いつも自分のことより 私のことを優先にして 考えてくれていて 不自由な思いを させないように。 としてくれているのは 子供の私から見ても 明らかなことだった。 (でも…。) 触れていた金網を掴む。 太陽に熱され少し熱い。 (ごめんね、お母さん。) 左手でも金網を掴み 一気に昇ろうと 足を上げようとした瞬間----。
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