猫とスパゲティ、彼女の風景

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  恩は鍵の壊れていた窓を、試しに揺すってみた。 カタン、と軽い音がして、窓は思ったよりすんなりと開く。 恩は一瞬躊躇したが、どのみち今夜の宿もない。 此処まで来たら、いっそ盗人扱いされて捕まるのも悪くないだろう。 恩は自嘲気味に小さく微笑むと、窓の隙間から長く伸びた脚を滑らせた。 「……っ」 カーテンのない窓からまともに射し込む朝陽に、恩は無理矢理起こされた。 と同時に、珈琲の香りが彼の鼻をくすぐる。 珈琲が効き、寝惚けた頭の靄が晴れた恩は、慌てて飛び起きた。 フローリングの洋室から、かつて母親が立っていた台所へ急ぐ。 「おはよう、野良猫君」 恩の足音で振り向いた女は、あっけらかんと笑った。 女は『萄子(トウコ)』といい、二十歳の美大生だと言う。 借家だったこの家の管理をしている両親に頼み、アトリエとして使っているらしい。 「メグミ?女の子みたい」 彼女は自己紹介した恩の名前を気持ちよく間違え、ズバズバと言ってのけた。  
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