猫とスパゲティ、彼女の風景

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  「…メグム、です。子供の頃はよく間違われましたけど、ちゃんと男ですから」 萄子の淹れた珈琲をテーブルに置き、彼は背筋を伸ばした。 が、所詮は十六歳の少年である。 背こそ大人並に伸びてはいるものの、首から肩にかけて線が細く、長い睫毛が草食動物のそれを思わせる。 透けるように白い頬には、髭すらまだ疎らであった。 今でも充分に少女と見紛うかもしれない。 珈琲の湯気越しに、萄子はクルクルとよく動く大きな瞳で恩を観察した。 「…アンタさ、行く所ないんなら、此処掃除してくれない?」 「え、」 言いながら恩は辺りを見回した。 この萄子という女学生は、明け透けな物言いと性格が、アトリエにまで現れているようだ。 書きかけのカンバスが置かれたイーゼルや、デッサン用の静物。 床に散らばった絵の具や筆。 お世辞にも整理整頓が行き届いているとは言い難い。 「理由は聞かないけど、家出して来たんでしょ?絵に触りさえしなけりゃ、此処に置いたげる」  
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