猫とスパゲティ、彼女の風景

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  萄子は基本、夕方授業がはけてからアトリエに来るらしい。 課題の期限が迫っている時は、此処に泊まり込むか、早朝に仕上げて大学へ持って行くそうだ。 「そしたらアンタが、床で寝てるじゃない?最初死んでるかと思ったわ」 そう言って笑う萄子の短い髪が、風を受けて軽く揺れた。 恩は近所に見知った顔が多いだけに、昼間はアトリエの掃除、夜に出歩き、深夜に寝に戻る生活をした。 お陰で萄子とは殆ど顔を合わせなかったが、却ってその方が居心地が良かった。 「野良猫君」 と萄子が最初彼を呼んだのも、案外的を射ていたと恩は苦笑した。 ある早朝、恩が相変わらずの遅寝をしていると、萄子が玄関を開ける気配がした。 そういう時は課題の期限が迫っていると聞かされていた恩は、そのまま寝た振りを続けた。 しかし、余りに筆の音が静かな事が気にかかり、彼はソファからそっと起き出した。 板張りの廊下を爪先で歩き、元は居間だったアトリエをそっと覗く。  
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