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嘗て、一年程前に若い娘が攫われ、殺された事件が起きたアクラツエル領のドォルガラ。
今ではもう人々の記憶から忘れられている出来事。
だが、今でも忘れずにいる者達がいた。
金糸の髪を一つに束ね肩に垂らす。
服装からしても貴族のような彼は一年程前の事件の関係者である。
嘗ての枯れ果てた森は茨の森となっていた。
茨の森に咲く薔薇を見つめていた彼は薔薇を一輪摘み、胸ポケットに挿す。
ジッと茨に覆われた奥深くを見つめ、踵を返し馬に跨るとドォルガラを出て行った。
アクラツエル領から辺境に近い荒野を抜けるとベルサージュ領だ。
ヴァンパイア一族の本家と言うべきベルサージュ家の治める地。
荒野の中にあるオアシスのような存在のベルサージュ家。
そこでしか草木や花、水がない。
人々も暮らせるはずもなくベルサージュ家の屋敷の領主と使用人程度しか住んでいない。
彼は領主に逢うべく屋敷を囲む程大きな薔薇園を訪れた。
「やぁ、オリエッセ・バイドラー伯。」
「いつ見ても美しい薔薇園だ、ヘルラージ・ベルサージュ伯。」
色素の薄い髪に菫色の目。
片目に眼帯をしたこの人物こそ、ベルサージュ家の現当主。
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