賊と娘

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 その娘は、全てを諦めた――――  山奥にある小さな村。  その村では毎年、神への捧げ物として、1人の娘が処刑される。  歳は15から20までで、村の大人達の会議によって選ばれる。  選ばれたらその娘は、自らが思い描いていた夢を諦め、その身を神に捧げなければならない。  今年も、捧げ物となる娘が選ばれた。  捧げ物として選ばれてから、その娘は部屋に閉じこもり、誰とも会わない日々を過ごした。  けれども、時は流れ、神に捧げられる日が近付いてくる。 「あぁ……私はまだ、死にたくない」  娘は涙を流しながら、神に捧げられる日を迎えた。  数人の大人達に連れられて、娘は神が祭られている祭壇にやってきた。  村長が毎年行われる決められた儀を行い、娘は地に膝を付き、神に頭を差し出す。  1人の大人が、娘の首に大きな斧を近づける。  振り上げられ、月の光で刃が光った。 (誰か……助けて……!!)  娘は目を瞑り、祈った。  決して来るはずのない助けを。  いつになっても首が落とされない。  不思議に思った娘は、目を開け、周りを見渡した。  地に伏している大人達。  その周りには、赤い水溜りが出来ていた。  何が起こったのか、娘には分からなかった。 「おい、娘」  娘の後ろから、声がした。  振り返ると、そこには1人の青年がいた。  その後ろには、大勢の男達。  手には血が滴る刃物を持っている。  風貌からだいたいの予想は出来た。  賊だ。 「おい、娘。おまえに2つの選択肢をやる」  青年が言った。 「俺らはこれからすぐそこの村を襲う。そこで死んでる大人達みたいに今ここで死を迎えるか、俺の嫁になれ」  どうする?  青年は娘に問う。 「死を迎えたいならそのままでいろ。嫁になりたいなら、この手を取りな」  差し出される細い、しかし筋肉質の右手。  月明かりに照らされる青年の姿は、賊であるはずなのに、どこか神々しかった。  娘は青年の手を取る。  差し出されたその手に、青年の神々しいその姿に、希望を見たから。  青年はニッと笑みを浮かべ、 「野郎共!! こいつは今から俺の嫁だ!! 手ぇ出すことは、俺が許さねぇぞ!!」  周囲に、男達の歓声が響き渡った。  その娘は、再び夢を描き出す――――
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