第1章 ある二人の一歩

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 もしかしたら、佐久間本人も自分の独占欲(オモイ)の強さに気付いていないのかもしれない。    彼女は、千葉が自分を"友達"と表現していたのに対して無意識に自らを"親友"と表現した。  これは彼女が千葉の"掛け替えのない存在"(シンユウ)になりたいと思うからだ。願望だ。  また、佐久間が千葉に自分はあなたの"掛け替えのない存在"(シンユウ)だと刷り込もうとしているようにも取れる。  どちらにしても、何にしても、既に佐久間有希にとって千葉潤は"親友(シンユウ)"なのだ。  既に"自分だけの存在"なのだ。  でもやっぱり気付かない。  千葉も本人も気が付かない。  会話は中断し、千葉は再び視線を桜に戻した。  担任教師は、時折腕時計をチラチラと確認しながら今後の時間割を説明している。  このHR(ホームルーム)が終わったら次は体育館で始業式らしい。 そんな周知の事実に興味は沸かず、千葉はやはり死んだ魚のような目で校庭の桜を見ていた。  彼の頭にあるのは、自分の第一印象がゼロどころかマイナスからスタートしたことしかない。  新しい友達作るのは苦労しそうだ。まずは好印象を与えるところ(イメージアップ)からか?なんて考えていた。  悲しい事に、彼はここでも勘違いに気付いていない。  実は、彼を見たことがなかった新クラスメートにとって、遅刻は"第一"印象ではないのだ。  この第三高校の殆どの生徒は千葉潤という名前くらい知っている。  そう、"三高最強の頭"として。  そして"悪(ワル)の頂点"として。  この時、千葉はまだ噂の一人歩きの恐ろしさを知らないでいた。
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