第0章 ある少年の日常

4/12
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
 人には集団心理が働く。  自分だけより集団の中にいる方が確かに安心するものなのだ。  この場合も、案外全然間に合うんじゃないのか、と間違っていたとしても思えてしまう。    だが、少年は彼らを見つけた時点で無意識の内に口の端をピクピクとひきつらせ、安心どころか"終わった"とさえ思っていた。  前方を歩く男子学生三人組の右、太く改造された学生ズボンをルーズに決め込んだ足立が振り向いた。そう、少年の方へ。  「おう!千葉!朝っぱらから筋トレか?あ?」  春の快晴の桜並木。  その風景にはどうやっても入り込めない、絵画に黒いインクを落としたように浮きに浮いた"やんちゃ坊主"達の全員が足立の声で千葉を確認した。  足立、生駒、上野。  彼らは千葉と同じく第三高等学校に通う同級生だ。  学校の生徒の大半には関わりたくないと思われている。  それだけ"やんちゃ坊主"な三人だ。  「クソが‥。初日から遅刻確定かよチクショウめ‥。」  そして、何かと千葉に喧嘩をふっかけてくる奴らでもある。  「おっ、此処で会ったが百年目ッてか!?」  坊主頭に剃り込みをした生駒が言う。  拳を鳴らす姿は極めて凶暴。  会う度に、本当に会う度に喧嘩をしているのだから、それこそ本当に百回以上喧嘩しているかもしれない。  「さァ~て、"前回の借り"返さないとなァ?」  そう、前回の喧嘩で生駒は千葉に完敗している。  にも関わらず、リベンジか‥。その不屈の精神には脱帽だよな。と、千葉は思う。  でも、そろそろ学習してほしい、とも千葉は思う。  彼ら三人は、"一度だって千葉に勝てた例がない"のに。    不屈の精神も考えものか。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!