第0章 ある少年の日常

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 千葉は、彼の顔面狙いのパンチを体を僅かに逸らすだけで"回避"する。と同時に身を屈めて足立の懐に潜り込む。  この一歩前に潜り込むことには、間合いを詰める以外にも意味がある。  左右後方から襲いかかってくるハイキックをかわす動作も兼ねているのだ。  そんな素人離れした立ち回りは偶然なものではない。千葉が情報から計算して出した答えなのだ。  三方同時の背後を襲う攻撃を当然のようにかいくぐる千葉に足立は驚きを隠せないでいた。  彼の全身から嫌な汗が出る。  一瞬の驚き(パニック)から立ち直った足立は、自分の懐に敵(チバ)の侵入を許していることに気が付いたのだ。  千葉は右の拳を力一杯に握り締める。  「遅ぇッーー!!」  彼の振り抜かれた拳(アッパー)は吸い込まれるように足立の顎を捉えた。  ゴッ‥という重たい音が足立の体を不自然に仰け反らせる。 ルーズ足立は一拍後に音もなく撃沈(ダウン)した。  残る敵は生駒と上野の二人。  両方とも体重を乗せた一撃目の空振りから体勢を整え直し、二撃目の予備動作に入っている。  だが、千葉は全く防御の構えをとらない。  千葉にとって、少なくとも彼ら三人組との喧嘩において防御は不要なのだ。  "防御"とは、回避出来なかった攻撃を"仕方無く"防ぐもの。  ジャンケンで相手の出す手を瞬時に見極められる千葉は、わざわざ"あいこ"になる手を出さなくても良い。
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