第0章 ある少年の日常

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 千葉は振り返りながら二人の動きを見る。  (右足からのローキックか!)  生駒の右足の軌道は先程より低い。恐らくは太股を叩いて機動力を削ごうという狙いだろう。  そう判断を下すと、千葉は左手で生駒の右足を掴もうと構える。  まだ加速しきっていない不完全な蹴りは、ずば抜けた動体視力を持つ彼の左手に掴み取られた。  これは防御ではない。攻撃の準備だ。  千葉は左腕を思い切り引き、生駒の右足を手繰り寄せる。  「なッ‥!?」  自分を支えるのは軸足だけ。そんな不安定な状態で右足を引っ張られた彼は、抵抗することも叶わず千葉のなすがままになっていた。  千葉は右拳に力を込めて、狙いを定める。  強制的に此方に向かってくる生駒の顔面目掛けてパンチをかます。  千葉自身のパンチのスピードに、今回は対象自身の移動速度が威力に加わる。  千葉は二人目も一撃で仕留めようとしていた。  が、生駒も素直に殴られる程バカではなかった。  両腕を頭の前で交差(クロス)させて防御したのだ。  容赦ない一撃が防御越しに彼を襲う。  体重が乗ったパンチを不安定な状態で受けた生駒は、後方に飛ばされて路上を転がった。  そこに千葉の追い討ちが迫る。  今度は千葉が生駒の太股(キドウリョク)を奪いに来たらしい。  しかし、上野が二人の間に「させるかよ!」と、割ってはいる。  千葉は、上野が来ようと同じことだろうとしか思わない。  割って入っても、三対一でコノザマなのだから、上野が一対一をしたところで勝機は無い。
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