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彼女を初めて見たのは、億劫としか言い様のない入学式の当日だった。
印象的だったのは、黒真珠の瞳。桜色に染まった、能面のような無表情。
それがなんとなく目に止まり、僕は足を止めた。
「なにしてるの?」
問うと、返事は案外あっさりと返ってきた。
「自分が生きていることに感謝しているの」
──足元がすくわれるような軽い目眩を感じた。背中をピリピリと、電流のようなものが走った。
僕は思わず言った。
「君も、生きることに失望したことがあるの?」
彼女は振り返った。
その時の、泣きだしそうな表情が、未だに僕は忘れられない。
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