55人が本棚に入れています
本棚に追加
私はよく人からトロいとか鈍いとか言われる。
だから、改善しようと思って、京都でうどん屋やってる伯母さんの所で働かせてもらっているんだけど、毎日毎日怒られてばかりだ。
でも、伯母さんには客商売だから愛想よくしろって言われて、笑顔だけは上手くなったと思う。
いや、思ってた。
たった今までは。
「オメー、何かあったか?」
「え?」
毎日店に来る常連さんからそんなことを言われたとき、私は一刻前に注文を間違えたばかりだった。
でも、ちゃんと顔も洗ったし、いつも通りの笑顔なのもちゃんと確認してから仕事してた。
だから、なんでわかったのか不思議だったけど。
「別に何にもありませんよ。
注文は何にします?」
彼は私をじーっと見つめるので、何だか恥ずかしくなってしまって、うつむいていたら、京屋うどんを頼まれた。
普段通りの注文だ。
それから普通に仕事して、彼が帰った後で休憩を申し渡された。
「あの、私……」
「さっきの人がおまえさんと話がしたいんだとよ」
さっきの人というと、あの赤い髪で手ぬぐいを頭に巻いた常連さんのことだろうか。
「でも……」
「あの人ァ新選組の組長だ。
大したことにはならんよ」
「えぇぇっ」
そんなことを言われたら、けっこうな失敗を彼にもやらかしていることを思い出し、血の気がひいていく。
「あ、あの」
「素人に手ェ出す奴でもねぇから、心配すんな」
手を出すかどうかが問題なんじゃなくて、そうじゃなくて!
混乱している私を店から無理やりに連れ出し、同僚達はその人の前に私をたたせた。
組長だと聞くと、視線が鋭いような気がして、俯いてしまう。
「じゃあ、この子お願いします」
お願いしないでぇぇぇっ
「おうよ」
彼は私の肩を自然に引き寄せ、そのまま歩きだした。
それほどの速さでもなく、私は普段通りに歩けてしまって。
こういう事に慣れた人なのだと思うと、ますます私は怖くなってしまって、ただ促されるままに道を歩いた。
「オメー」
「は、はいぃぃぃっ」
最初のコメントを投稿しよう!