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裏返った声で返した私に対し、彼は小さく吹き出す。
そのまま、肩を震わせて歩きつづける。
「そんなに怖がんなくてもよ、オメーみたいなガキに手ェだすほど不自由してねェから」
軽く肩を叩かれる。
たったそれだけで、安心してしまって。
見上げると、私を見下ろす瞳は優しくて。
つまりは、それだけ近くにいるわけで。
「あの」
「団子は好きか?」
「え?
あ、はい。
好き、です」
反射的に頷くと、彼は急に笑って、道を変えた。
一件の団子屋で彼が買い求めている間、私はどうしようもなくて、きょろきょろと辺りを見回した。
午後も過ぎ、今日は柔らかで過ごしやすい陽気だ。
団子屋には疎らに人がいるばかりだが、みんな笑っている。
ただそれだけのことが嬉しくて、私も自然と綻んでいた。
お店で作る笑顔じゃなくて、本当に心から笑うなんて久しぶりかもしれない。
「何ニヤニヤしてんでェ」
失礼な。
「怒るなって。
行くぜ」
てっきり団子屋で食べるものと思っていた私の手を引いて、彼はまた歩きだす。
いったい何処に行くんだろう?
* * *
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