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右手には川、左手には団子、傍らには組長という不自然な状況に固まっていた。
「なんでそんなに離れて座んだ?」
「だ、だって」
警戒すると言うよりも、何か本能的に隣に座ることを避けていた。
別に彼だからと言う訳じゃなく、ただの常連さんの隣に私が座るというのも、新選組の組長の隣に私が座るというのもおかしい気がするからだ。
私の気を他所に、またも彼が座る距離を詰めてくる。
なんとなく、その場から距離を取る。
「オレに一つぐらいくれねェのかよ」
「ご、ごめんなさいっ。
はいっ」
めいっぱい腕を伸ばし、差し出す。
もちろん、これを買ったのは彼なのだから、私が一人で食べる謂れはない。
彼は柔らかく苦笑すると、団子の皿ごと私の腕を掴んで引き寄せた。
態勢を保つために足が勝手に彼に近づき、ポスン、と彼の胸に当たった。
「す、すみませんっ」
離れようとしたけど、掴んでいない方の手で頭を引き寄せられる。
「あ、の……お、お客様っ」
「いいから黙ってろよ」
「で、も……」
黙っていられるわけがない。
こんなに男の人の近くにいるというのは父様や兄様以外初めてで、どうしたらいいかなんて全然わからなくて。
「お、お団子がっ」
そういえば、持っていた団子の重さが消えている。
「オレが持ってるぜ。
落としたら食えねェだろ」
ど、どおりで。
「それよりヨオ、マジでなんかあったんじゃねェか?」
「え?」
「仕事、辛ェのか」
あやすように頭を叩かれて、なんでか涙が溢れてきてしまって。
声を殺して泣く私を優しく抱いてくれた。
辛くないわけじゃない。
ただこんな私を使ってくれる伯母さんに申し訳なくて、迷惑をかけてしか生きられない自分が情けなくて出てくる涙だ。
だれにも言ったことなんてなかったのに、どうしてわかってしまったのだろう。
ひとしきり泣いた後、気恥ずかしさに照れ笑いを返した。
「ははっ、やっと笑ったな。
やっぱよォ、そっちの顔のがいいぜ。
笑うときゃ腹の底から笑わなきゃな!」
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