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そう言って、彼自身も快活に笑った。
なんて気持ち良く笑うと人なのだろう。
快晴の空に映える笑い声は聞いていて、すぅっと体に染み込んでくる。
それから二人楽しく団子を食べた。
「お客様はどうして」
「待った。
オメー、まさか俺の名前を知らねェんじゃ……」
「え!?」
そういえば、と思い返す。
が、聞いた覚えはあるようなないような。
たしか。
「……はち、さん……でしたっけ」
「違うって。
いいか、今度こそちゃんと覚えておけよ」
彼はそこで一区切り置いて、真っ直ぐに私と目線を合わせる。
真剣に、対等に、見つめてくるその意味に、この時の私はまったく気がつきもしなかった。
ただ、父様や兄様のようだと思った。
私を守ろうとしてくれる、優しい人だと。
「俺ァ永倉新八だ」
「ながくら、様?」
「…………いいけどよォ、様は別につけなくってもいいんだぜ?」
それから、と彼は続ける。
「オメーの名前もちゃんと聞かせてくれねェか」
「えと、長浜静流です」
一瞬彼は驚いたように私を見て、納得したように頷いた。
呟く言葉はよく聞き取れなくて、私は一人で何度も頷いている永倉さんを観察する。
今はもう、怖くはない。
兄様のような人に思う。
「静流」
「はい、なんですか?
永倉様」
兄様みたいな人だということがなんとなく嬉しくて、嬉しい気持ちのまま笑顔で返事を返したら、今度の彼は目を背けて、頭をかいた。
兄様はこんなことはしない。
「仕事辛ェかもしれねェけどよォ、頑張れ。
んで、時々はこうして団子食いに来ようぜ」
照れているけれど彼の言葉がとてもとても嬉しくて、私は大きく頷いた。
「はいっ」
「よしっ、いい返事だ」
――了
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