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男だって逃げたくなるようなどんな場面でもこいつはひとり立ち向かい、今の自分を築いてきた。
こいつの前にある道はただの男も敵わぬほどの修羅の道で、想像しえないほどの血と刀で切り開かれてきた道だ。
一言でも弱音を吐けば、おそらくついてこれねェ。
そうとわかっているから口に出せなかった言葉を聞いているのが、俺だけでよかったぜ。
「ばぁか」
普通の女よりも短く切り揃えられた髪を梳く。
吸い付くような感触は、意外と心地よい。
「男だろうが女だろうがオメーに敵うやつなんかいねェよ、鈴花」
だから、平和な時が来る時までは頑張れるように、俺がずっとそばにいてやる。
「……うー……あれ、永倉さん?」
平和になったら、そんときァ、なァ。
「え、あれ?
なんで、永倉さん???」
「俺を呼びにきたんじゃねェのか?」
「え、ええ。
それで、なんで、あれ?」
混乱している鈴花の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「うわ、ちょっ、やめてくださいよっ」
平和になったらよォ、今度は女として俺に守られてくれよ。
「いーかげんにしないとっ」
「しねェと?」
「たたっ斬りますよっ!」
子犬のように吠える鈴花から離れ、境内を出た。
追いかけてきてくれる足音が止まないことを願った。
――了
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