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島田『急拵えのにわか軍に幕府が負ける訳がありません。軍勢の差は明らかですしね。』
と大きく開けた口から、緊張感の欠片もない笑い声をたてた。
永倉(どうかな…)
新選組発足以来、最も人を斬ってきたのは永倉だったろう。
だからこそ、未知なる敵と対峙する事の恐さを誰よりも知っているのである。
野性の勘が、永倉の胸をざわつかせるのだ。
原田『そう暗い顔すんなって。なぁハジメ?』
背後では斎藤が、黙々と刀の手入れをしていた。
斎藤『…あんなもの、相手の懐に入ってしまえば無力であろう。』
永倉『簡単に言うなぁ』
斎藤『簡単な事だ。銃弾より疾く走れば良い。』
(……)
皆、沈黙した。
ぎらぎら光る斎藤の愛刀・鬼神丸が妙に不気味に見える。
(あんたは出来るのか?)
とは、何故か誰も訊けない。
斎藤『できなければ…』
呟きながら、斎藤は懐紙に刀身をつうーっと滑らせ、
斎藤『死ぬしかないな。』
パチン、と納めた。
原田『…ま、解らんものは考えた所で無駄さ。』
永倉『それもそうだな。酒でも飲むか。』
本来、能天気な二人である。
凰葉『あの元気が戦まで続けばええけど…』
男達を遠目に、凰葉が溜め息をついた。
空は茜色に染まっている。
大石『全くね。』
隣には、夕日に照らされた顔を憂鬱そうにしかめた大石鍬次郎が座っていた。
大石『我らみたいな者をこんなところに留めて置くってのが、そもそも無理な話なんだ。』
凰葉『え?』
大石『こう毎日退屈だと、敵味方の区別なく斬ってしまいそうになるでしょ?』
と、しかめていた口許を不敵に綻ばせた。
凰葉『…いや全然。』
この男とは距離を置こう。
凰葉がそう心中に誓った、まさにその時、
『!!』
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