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《京都・市中の茶屋》
沖田総司は、目の前の異様な光景に驚いていた。
先ほど、空腹の余りぶっ倒れた妙な女が、米五合はありそうな丼飯をいとも簡単に口に流し込んでいるからだ。
其れだけじゃ無い。煮魚に、味噌汁に、京漬物に、小鉢に……。
いやいや、と沖田は頭を振った。
この人の食事風景を見に、ここ迄来た訳では無い。
沖田『一体、何時からモノを食べて無かったんです?』
沖田の問いかけにも女は応えず、無心で箸を進めるだけである。
沖田『……。まぁそんな事はいいんですけどね!それより、名はなんと言うんです?』
笑顔で訊いた沖田の言葉を聞いた途端、箸の動きがピタリと止まった。
妙な女『………人に名ぁ尋ねる前に自分から名乗れや呆けが……。』
……。
店の空気が一瞬凍った様な感覚だった。しかし…
沖田『ふっふっふ…やっと喋りましたね!あはは、私の勝ちでしょうか!』
と勝ち気に喜んだ。
女は目をパチクリとさせて沖田の顔を初めて正面から見た。
ふふ…と笑いが溢れる。
意地を張るのも馬鹿馬鹿しくなって、一気にこの場の緊張感が消えていった。
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