空色ノ唄-ホーム-

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テトラは建物に近付いた。 人気がない。動物の気配もない。静か過ぎるほどだ。しかし、その静寂を不気味と感じさせない不思議な雰囲気だった。 テトラ入り口へと向かう。 ノックをした・・・が、やはり中からの反応はない。 ドアノブに手をかける。 どうやら鍵は掛かっていないようだ。 少し力を入れて扉を押すと、キィと金属がきしむ音とともに扉は開いた。  *  *  * どうやら酒場のようだ。 しかし荒れていた。 乱れた椅子、テーブル。 破壊されたカウンター。 至るところに散らばる硝子の欠片。 そして、染みとなった血の跡。 その様子と、埃を被っていることから随分長い間使われていないと推測できる。 なんとなく眺めていた時、とある物が目についた。 ―――壁に掛けられた一枚の写真。 それは訴えていた。 誰もいなくて寂しいと。 昔の温もりを返して、と。 吸い込まれるように見続けるテトラ。 写真にはテーブルを囲い、騒ぐ人々の笑顔写されていた。 テトラは顔を反らす。 そして俯いたまま走りだした。 噛んだ唇には血が滲んでいた。
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