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『あぁ、そういえば僕そんな風に言われてたんだったね。忘れてたよ……』
少し何かを考えるような仕草をして、一拍おいた後に苦笑いを浮かべながらそう答える。
『じゃあ、僕は早く君たちの前から消えた方がいいのかもね……それじゃ』
「お、おい……」
と、“化け物”が、草木の間から出ている自分の頭を引っ込めようとする。
子供達は茫然自失だ。何がなんだか分からない。シグルだけはなんとかそれを引きとめようとしたのだが、出てくるのはかすれ声ばかり。“化け物”の耳には届かない。
いや、おそらく届いてはいる。だが、彼はそれを振り切るようにして無視をしているのだろう。
「――あん? なんだってこんな所にガキが三人も居やがるんだ?」
『……あ』
不意に、子供達の後方から、“化け物”からしたら前方から、そんな言葉が辺りに響く。
『やぁヴィス。いたの?』
「ん? いちゃ悪いか?」
『悪くはないけどさ』
男はずんずんと前に出ていく。そして三人の前を通り越し、“化け物”の顔の前に進み出た。
ヴィスと呼ばれたその男。
手には抜き身のサバイバルナイフを持ち、そして汚なくはないが決して綺麗とは言い難いボサボサの黒髪を生やしている。少し若めの顔立ちをしており、所々ほつれているよれよれの黒いマントのようなものを身に着けている。
子供達は、いきなり出てきたその男に更に肝を抜かれた。
こんな所に自分達以外の人物がいたということもさることながら、それ以上に驚くべきこと。
それは、“化け物”と親しげに喋っているということだ。
――男は“化け物”としばし会話を交わしていたが、その場に突っ立ったままの三人をふと思い出したかのように、ついと振り返る。
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