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SCINE2,ENTRANCE
「痛た……身体中が痛いや……何でだろ……」
どうにも頭の中がハッキリしない。
けれど、とりあえず僕は考えた。
こんなこと考えなくても判るだろ、というようなことをいちいち口に出しながら。
「僕の名前は迎田愁(こうだ しゅう)、十七歳で誕生日は五月十一日。県内ではある程度のレベルの進学校で、陸上部所属……うん、間違いない。
ええと、今日は八月一日で部活の合宿に来ていて……あ、そっか。
喉が渇いたから、深夜に明かりもなしで外の自動販売機にジュースを買いに行ったら、突然突風がふいて……それで、足を滑らせて崖から落ちたのか……」
頭は痛いから落ちたときに打ったみたいだけど……記憶は大丈夫みたいだ。ここは喜んでいいのかな?
幸い、どこからも出血はないし。
……それにしても……間抜けなことをしちゃったなぁ。
空は白みがかかってるから、まだ早朝といったところか。
僕がいなくなったことはまだ誰も気がついてないだろう。
みんなが心配し出す前に帰りたいけど──。
思って、僕は自分が落ちてきた崖を見た。
そして、自力で帰ることを諦めた。
理由は単純、一番上が見えなかったからで、しかも僕は崖登りの経験なんかなく、更に追撃をかけるかのように崖には手や足をかけるような場所があまりない。
ていうか、よくあの高さから落ちて生きてたもんだなぁ。自分を少し褒めてあげたい気分だよ。
服は土が多少付いてるくらいで、破れているところはない……か。
とりあえず僕は身を起こした。
身体は痛むけど、ちょっと動くくらいは出来るみたいだ。
「これからどうすればいいんだろ……」
辺りを見回すが、当然ながら全く見覚えはない。
下手に動くと危険かもしれないけど、助けがすぐに来てくれるとも思えないなぁ。
ここは森の中みたいだけど、少し探索してみようかな?
森から出たら、誰かに会えるかもしれないし。
「それに──」
待ってましたと言わんばかりのタイミングで、ググーという音が鳴った。
「──お腹も空いたしね」
森の中で食べ物を採ろうなんて考えは毛頭なかった。
どんなものが食べれるという知識が全くないのに、それっぽいものを適当に食べてお腹を壊したくはないからね。
「それにしても……戻ったら怒られるだろうなぁ」
僕はゆっくりと溜息をついた。
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