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『どうせ暇だろう? だったら父さんの家に遊びに来なさいよ』
『嫌だ』
『交通費とは別に、父さんの虎の子を提供しよう』
『乗ったぁあ!!』
もっと久々の親子電話は長かったけども、かい摘まめばこんな感じだ。
結局のところ、単身赴任中のメタボまっしぐらの親父によるこの一声で、私の冬休みのスケジュールは実にあっさりと決まった。
初めての一人旅とはいえ私に不安はさほどなくて。むしろテンションは上がっていた。
『いや、父さんさぁ仕事でさぁー』
……と、この殺意を芽生えさす電話一本が掛かるまでは。
◇◆◇◆
二時間ドラマのクライマックスよろしく崖から海を眺める私、華の高校2年生。
うわー、崖ちょっと怖いや。
数分も経たぬ内に、携帯のバイブレーションが響いた。
《楽しんでるかい、我が娘よ。父さんは大切な会議中だ。はは、適当に和歌山を観光していなさい。オススメスポットはだなぁ……》
長い、とにかくクソ長い。
「会議中に着信させてやろうか、あのバカ親父」
パチンと携帯を閉じ、一息。
あぁ、寒い。
仰いだ空は晴れているのに、どこか曇った澱んだ灰色をしていた。
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