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「お父様」
声をかける。少しふくよかな父親は初めてパデュマに気付いたらしく目を丸くした。
「パデュマか。部屋に戻っていなさい」
「お父様、私の婚約者がどうなさいましたの?」
「婚約者?」
レシフェと呼ばれた男性が興味深そうに反応する。
「そうですわ。私、フィリップ様の婚約者になりましたの。今朝から姫様って呼ばれておりますの。愛らしいフィリップ様ですが、きっと私のことを知りませんわ。先ずはお城とこちらの屋敷のお庭の散歩から」
「何言ってんだ?」
レシフェは冷ややかな眼差しをパデュマに向け、パデュマはレシフェをただ見る。
「いつ婚約者になったんだ?」
「お父様、昨日ですわよね? 国王様とお話されたのはそれで」「パデュマ、きちんと話すから今は部屋に戻っていなさい」
父親がゆっくりと告げる。
パデュマは不思議に思いながらも父親の言うことに従おうとした。
窓を見る。晴れ渡った空は気持ち良さそうだ。
「お散歩をしてきても構いません? 夕暮れには戻りますわ」
父親の返事を待たずにパデュマは部屋に戻る。着替えるために。
部屋はもうすっかり片付けられていた。メイドが一人立っている。
自分の専属のメイドがいれば、友人のようになれるのに、そうパデュマは思っていた。しかしまだ十四のパデュマの歳近い娘はみんな学校に通っていて、メイドとして働きには来れない年齢だ。
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