テーマによる前奏

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 メイドに服を着替えさせてもらう。髪をブラシでゆっくりととかしてもらいながら、パデュマは窓の下に見える森を見つめた。  屋敷は貴族地区の端にある。大きな塀で囲まれ、外側は森だ。塀の向こうの森へは、貴族地区から平民地区に抜けて迂回しなくてはならない。  そこには行ってはいけないと言われていた。  貴族地区の外れにも森はある。服が汚れるのが嫌で誰も行ってはいないが、数回そこに父親が向かうのは確認していた。 「知らないことがあってはいけませんわ。だって私はこの国のお妃様になりますもの」 「姫様、綺麗に仕上がりました。あら、どこかにお出かけですか? お付きの者を……」 「貴族地区から離れないので構いませんわ。行って参ります」  一人じゃないと自由にできない。森に行ったって汚れるとかそんな風なことを言われて、結局は楽しめずに終わってしまう。  パデュマはそう思い、屋敷から飛び出す。  外に出ると、多くの貴族の馬車が屋敷に向かって来る。使用人もその対応に忙しくしていた。  パデュマに気付く人も止める人もいない。 「今日は森の視察に行きますの。森はどんなところかフィリップ様に手取り足取りお教えいたしますわ」
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