テーマによる前奏

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 屋敷から離れ、貴族地区の奥へ。丁寧に舗装された道と、色とりどりの花が咲く場所から一歩抜ける。  木々に囲まれた森に着いた。  それでも石畳の道は続き、パデュマはそれに沿って歩いて行く。  木々で薄暗くなり、深く入り込んだと思った瞬間に景色が開けた。  正面には白い屋敷。貴族地区の中でも大きい自分の屋敷より大きく、見張り塔や大きな門も構えられている。 『ガレッティーエ生誕記念』と書かれた石碑が立っていた。 「ガレッティーエ」  覚えがある。数年前に亡くなった国王の母親。すなわち国王の弟であるフィリップの母親でもある。 「義母様の……」  パデュマは開けられたままの門をくぐった。恐怖とかそんな感情は全く生まれなかった。  門を過ぎれば大きな池がある。綺麗な水が流れ、その奥には見渡す限りの薔薇が咲いていた。 「こんにちは、迷子?」  薔薇の中から一人の青年が顔を出す。銀の髪は降り注ぐ太陽の光に透けてきらきらと光っていた。 「あっ、お邪魔いたしておりますわ」  パデュマは一歩下がって礼をした。 「構わないよ、人に会うなんて久しぶりだし。誰も来てくれないからね」
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