テーマによる前奏

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「人に会うのが久しぶり……貴方は此処に閉じ込められていらっしゃいますの?」  パデュマの質問に銀の髪の青年は優しく笑う。 「そういう訳ではないよ。ここには僕が好きで居るんだ。薔薇は毎日お世話をしないといけないからね」  パデュマは青年の周りを見渡す。一面の薔薇はどれも光を浴びて光っていた。 「貴方は貴族ですの? 私はフィリップ王子の婚約者でパデュマと申します」 「フィリップの? そう。あの子を大切にしてあげてね。僕は……『リストの息子』だよ」  リストの息子。パデュマは繰り返す。知っている貴族にその名前の記憶はない。 「貴方のお名前は? リストとはどなたですの?」 「名前は言ってはいけないんだよ。僕は皆を捨ててしまったから。親友も兄弟も……」  青年は苦笑し、パデュマに薔薇を一本渡す。とげが刺さらないようにハンカチで包んだ。 「リストは王妃になれなかった町の娘。不相応な恋の果てに命を落とした哀れな娘。君には悲しい想いをしてほしくないな、旅人の娘パデュマ」 「私は公爵の娘ですわ。そうですわ、私は貴方の事を薔薇の王子と呼びますわ。そしてまたお会いしに来ますわ、私もお話ができる方とお会いしたかったのですわ」  パデュマは薔薇を大切に胸に抱き、青年に一歩近寄る。 「時間があるなら、紅茶でも飲んでいく? 久しぶりで嬉しいよ」  青年は微笑み、パデュマは小さく頷いた。
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