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青年はパデュマを屋敷の中に案内した。パデュマは疑うことなく素直についていく。
「信用してもらうのは嬉しいけど、お姫様なんだからもう少し危機感を持たないと」
くすくすと笑われ、パデュマは顔を赤くしてうつむく。
「お姫様になるのはまだ少しだけ先ですわ。フィリップ様に先ずお会いしないといけませんわ」
「そうだね」
柔らかく青年は言い、天井の高い部屋にパデュマを通す。大きな窓からは光が入り、薔薇が見渡せた。部屋の中なのに水路が通り、水の流れる音が高く響いている。
「素晴らしいですわ。このような屋敷がありますのね」
パデュマは微笑み、青年の示したテーブルそばに立つ。そこから見える部屋も庭も明るくて、パデュマは嬉しくなる。
「使用人はおりませんの?」
「僕一人だよ。たまに祖母が差し入れとか持って来てくれるけれどね」
青年は微笑んでパデュマに座るように促した。白い椅子に座ったパデュマの前に薔薇の花びらが浮かんだ紅茶が出される。
「冷たいよ。ゆっくり飲んでね」
「お気遣い感謝いたしますわ」
パデュマは紅茶を飲みながら部屋の端に置いてあるピアノに目を向けた。
「ピアノをお弾きになられますの?」
パデュマの問いに青年もピアノに視線を合わせる。
「少しは。歌を作ったことがあるんだよ」
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