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「もうそろそろ帰らないと。森の道が暗くなってしまうよ」
「まだそんな時間ではありませんわ」
まだ太陽は一番高いところまで来ていない。パデュマは飲み干した紅茶のカップを持って青年に答えた。
「昼を過ぎると、影になってね。道は暗くなるんだ。ここら辺は危ない動物もいないけど、道が見えにくいとつまづいてしまうよ」
ゆっくりと青年は言い、パデュマのカップをそっと受け取る。パデュマは青年の目を見て「分かりましたわ」と返事をした。
青年はパデュマを屋敷の門まで送る。薔薇の咲く道を歩き、パデュマは花びらに触れた。
「またこちらに訪れても……」
「是非お願いしたいよ。歌を練習してくれるのならその成果も聞かせてほしい。フィリップに会ったなら、あの子のことも教えてほしい」
「はい」
パデュマは微笑み、青年に手を振って来た道を辿る。なんだか不思議な気分と、懐かしい暖かい気分が重なって、心地良かった。
屋敷に戻り、部屋に直行する。青年から渡された楽譜を誰にも触られない自分だけの本棚に直そうと思った。
「パデュマ、戻ったのか?」
「あ、はい。戻りました、お父様」
廊下で父親にすれ違い、パデュマは楽譜を後ろに隠す。父親はそれを見咎めることなくパデュマに笑いかけた。
「今日はパーティだ。後で私の部屋に来なさい」
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