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「夕食前には行きますわ」
パデュマは父親の言葉を聞いた後で頭で自分の行動を考えた。
楽譜を隠して、風呂に入って、父親からもらったお気に入りの薔薇水を振りかけて。
ダンスのステップを練習して。
イメージしながら部屋に入る。部屋にはまた別のメイドが立っていた。
「お帰りなさいませ姫様。入浴準備が整っております」
「感謝いたしますわ」
パデュマはその奥の扉を開く。必要時以外は人の入らない完全な自分だけの空間。
楽譜を隠して、靴を脱いでベッドに倒れ込んだ。
「どうしましょう」
言葉を放つ。
「どうしましょう、どうしましょう、どうしましょうーっ!!」
枕に顔を埋めてパデュマは叫んだ。
「フィリップ様にお会いするのですわ、きっと。今日のパーティは婚約のお知らせですわね。どうしましょう、私はフィリップ様に好いていただけますのかしら」
嬉しくてたまらない。
可愛らしいあの子と再会できる。公認の婚約者として。
パデュマは起き上がり、楽譜を持ってベッドに座った。
「この素敵な歌を聴いていただきたいですわ。フィリップ様もきっと気に入ってくれますわ」
青年が歌っていた通りに歌う。嬉しくて声がうわずっていたが、気にしてられない。
「っ、大丈夫!?」
「え?」
開け放っていたバルコニーから少女が顔を青くして見ていた。見たことのない少女だ。
バルコニーにいるということは賊かも知れない。
「貴女の声が苦しそうだから思わず来たのよね。具合が悪いのなら、なんとか人を……」
「貴女は……盗人ですの?」
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