テーマによる前奏

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「貧民……」  パデュマは呟く。  少女は父親に用があると言っていた。そこに立ち会わなくてはいけない衝動に襲われる。  服を着替えるのも入浴も後にしてパデュマは部屋を出ようとした。  手に持つ楽譜を思い出し、それだけはきちんと隠す。 「貴方が無茶をしたせいで、あたしの大切な人が帰ってこれなくなったのよね!!」  少女は父親の執務室の前で怒鳴っていた。だがそこにはいないはずだ。 「出てくるのよね! 私が貧民だからって……な、なにするのよね!」  騒ぎを聞き付けた使用人に少女は取り押さえられる。パデュマは慌てて駆け寄った。 「姫様、近寄ってはなりません。これは汚い貧民の娘、そもそもアバダン様の屋敷に忍び込むなんて、処刑をしなくては」 「ちょ、処刑とかふざけないでよね! 民の声も聞かないで何が貴族なのよね!!」  パデュマは訳もわからず立ち尽くす。掠れた声で少女を押さえる使用人に聞く。 「その方がどうなさったの? わ、私の友人ですわ」 「えっ?」  少女は戸惑いを見せ、使用人達も一瞬パデュマを見つめる。 「これはこれは、姫君。ご機嫌うるわしゅう」  それ以上の言葉を紡げないでいるパデュマの後ろからまだ声変わりもしていない少年の声が聞こえる。 「あ、ジョシュア様。どうなさいましたか?」  ジョシュア。下位貴族の跡取り息子だ。屋敷にはよく両親と訪れている。  見かけるだけで話したことはなかった。
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