テーマによる前奏

22/23
前へ
/25ページ
次へ
 少女はパデュマが立ち上がるのを待たずに走り出す。すぐに見えなくなった。 「あっ、お名前をお聞きしていませんでしたわ……」  でも、また会えますわよね。とパデュマは微笑んだ。 「お父様!」  シュトゥーリと歩く父親を見て、パデュマは軽く手を振った。昼間に見るシュトゥーリは、昨夜見たほど不審なところもなく、普通の貴族に見える。 「先程の赤毛の娘は誰だ?」  ゆっくりと落ち着いた声で父親に聞かれ、パデュマは微笑んだ。 「私のお友だちですの。すごく可愛らしくて、ずっと仲良くしたいですわ」  パデュマは小さく手を叩く。 「お父様、あの方に私の専属のメイドさんをしていただきたいですわ。貧民という方ですが、きっととても楽しそうですもの」 「パデュマ姫様、貧民は貴族と友人にはなれませんよ。メイドになるなんてとんでもない」  シュトゥーリが横から話す。パデュマはその言葉には耳を貸さずに父親を見た。 「赤毛か……。良いだろう。あの娘が良いと言うならいつでも良いから私のところに連れておいで」 「お父様、ありがとうございます!」  パデュマは満面の笑みで礼をする。少女の走り去った方に自分も駆けていった。  彼女の会いたがっている父親がいる。その父親から直々に連れておいでと言われた。  ずっと一緒にいれるかもしれない。あの少女と。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加